「母と暮らします」と言って去っていった女性のこと
結婚相談所の10年で、忘れられない方が何人かいます。
今日書くのは、そのうちの一人です。
結婚には至りませんでした。
婚活の結果としては、うまくいかなかった話です。
それでも書いておきたいのは、彼女の最後の顔が忘れられないからです。
個人が分からないように、年齢や経緯は変えてあります。
「母を安心させてあげたくて」
Dさんは30代の後半で、お母さんと二人暮らしをしながら会社勤めをしておられました。
長く勤めて、仕事にも慣れた立場だったと記憶しています。
婚活を始めた理由をたずねると、彼女はこう言いました。
「そばで年老いていく母を、安心させてあげたくて」
その言葉を聞きながら、私は胸が温かくなりました。
ただ、条件がひとつありました。
結婚するとお母さんが一人になってしまうので、なるべく近くの方がいい。
それが彼女の希望でした。
活動を続けるうちに、何人かとの出会いがありました。
そしてある日、「この人なら」と感じられる方が現れました。
相談に乗る立場として、私は密かに思っていました。
この出会いは、うまくいくだろう、と。
晴れない顔
ところが、彼女の顔は晴れませんでした。
笑顔があるはずのタイミングで、どこか沈んでいる。
気になりながらも、私はそのまま見守っていました。
ある日の面談で、この先どうするか、という話になりました。
彼女の返事は、静かなものでした。
「私は結婚をやめて、母と一緒に暮らします」
私は、すぐには言葉が出ませんでした。
うれしいことのはずなのに。
いい人に巡り会えたのに。
でも、彼女の顔を見ていて分かりました。
これは、彼女が自分で出した答えなのだと。
泣きそうな顔でもなく、投げやりな顔でもありませんでした。
どこか、決めた人の顔をしていました。
二つの道の間で
あとから思うと、彼女はずっとこの問いと向き合っていたのでしょう。
自分は幸せになれるかもしれない。
だけど、母はどうなる。
彼女の前には、二つの道がありました。
結婚して、新しい家庭へ進む道。
結婚せずに、母親と暮らす道。
どちらが正解か、という問題ではありません。
彼女が決める人生の問題であり、彼女が答えを出した。
それだけのことです。
おそらく彼女は、見知らぬ家庭に嫁いでいくよりも、お母さんと一緒にホッとした毎日を過ごせる人生を選んだのでしょう。
「今は」という言葉をつけておきたいと思います。
人の答えは、変わってよいものですから。
活動を終える日、彼女の顔には物寂しさがありました。
それでも、どこかすがすがしさを感じました。
誤解のないように書いておきます
ここで、はっきりさせておきたいことがあります。
私は、結婚しなくていい、と言いたいのではありません。
彼女が偉かった、という話でもありません。
もし彼女が結婚を選んでいたら、それもまた、いい選択だったと思います。
私が大切だと思うのは、選んだ中身ではないのです。
彼女自身が「自分の人生を決めた」と感じたこと。
そこだけです。
同じ結果でも、まわりに流されて婚活をやめたのなら、あの顔にはならなかったと思います。
追い詰められて投げ出したのなら、すがすがしさは残らなかったでしょう。
彼女は、自分で考えて、自分で決めました。
だから、あの顔だったのです。
成婚だけが、いい結果ではありません
相談所を営んでいた者としては、成婚まで導けるのがいちばんです。
そのために仕事をしていました。
ただ、10年やってきて思うのです。
成婚しなかった方のなかにも、いい終わり方をされた方がいる。
そして成婚された方のなかにも、迷いを残したまま進まれた方がいる。
結果の形と、その人の納得は、必ずしも一致しません。
あなたがいま、婚活の途中で迷っているとしたら。
どちらを選ぶかで悩んでいると思います。
けれど、あとから効いてくるのは、選んだ中身よりも、自分で決めたかどうかのほうです。
私は、そう思っています。
急がなくて大丈夫です。
あなたの人生を決められるのは、あなただけなのですから。
自分で決めるということを、一冊かけて書きました。
『正解の結婚より、納得できる人生』

