チェックリストを閉じたとき、彼女が見つけたたった一つの基準
これから書くのは、私が結婚相談所で出会った女性の話です。
個人が分からないように、年齢や経緯は変えてあります。
お伝えしたいのは、細かい事実ではありません。
彼女が、何を信じ直したかということです。
「途中から、作業になっていました」
Aさんが相談に来られたのは、30代の半ばのころでした。
仕事は順調な方でした。
職場ではチームをまとめる立場にいて、まわりからの信頼も厚かった。
「たいていのことは自力で解決してきました」
そうおっしゃっていたのを覚えています。
子どもを産むことを考えると、そろそろ結婚しなければ。
そう考えて、婚活を始められました。
仕事と同じように、行動を重ねて経験を積めば、きっと相手も見つかるだろう、と。
積極的にお見合いを重ねられました。
そして気づけば、長い月日が経とうとしていました。
ある日の面談で、彼女はぽつりと言いました。
「最初は真剣に向き合っていました。でも途中から、作業になっていたんだと思います」
そしてこう続けました。
「相手の話を聞きながら、頭の中でチェックリストをたどっている自分がいた」
チェックリスト。
その言葉が、私には引っかかりました。
「そのリスト、誰が作ったんですか」
私は聞いてみました。
そのリスト、誰が作ったんですか、と。
彼女は少し黙ってから、答えました。
「親との会話……あと、なんとなく世間かな」
自分で作ったつもりのものが、自分のものではなかった。
そのことに、彼女はそのとき気づいたのだと思います。
話を深めていくと、彼女のなかに、はっきりした傾向が見えてきました。
自分のペースを大切にしたい、という気持ちです。
それを伝えると、彼女は少し困ったように「わがままかな」と言いました。
そうではありません。
それが、彼女のありのままの感覚です。
私は、ひとつ提案をしました。
チェックリストを、いったん置いてみませんか、と。
次に会う人には、ただ、一緒にいて楽かどうかだけを感じてみてほしい。
そう伝えました。
「今回でダメだったら、婚活はやめます」
数か月後、交際している方とのデートの予定が入りました。
静かな場所で、半日ほど一緒に過ごす約束だったようです。
交際に入ってまだ何度も会っていない時期でしたから、長い時間を二人きりで過ごすのは少し早いかもしれない。
そんなことも、頭をよぎりました。
出かける前、彼女は笑いながらこう言いました。
「今回でダメだったら、婚活はやめます」
以前にも、同じ言葉を聞いたことがあります。
けれど、そのときとは響きが違いました。
以前は、焦りや投げやりな雰囲気がありました。
この日の彼女は、どこか吹っ切れた顔をしていました。
結婚しなければ、という顔ではなく、私は私の感覚を信じてみます、という静かな覚悟が感じられたのです。
翌日の連絡
翌日、彼女から連絡がありました。
彼と、結婚を前提にお付き合いを進めたい。
そういう内容でした。
理由を聞くと、こうでした。
長い時間二人だけでいても、無理をしなくてよかった。
その言葉を聞いた瞬間、私は心のなかで「これだ」と思いました。
年収ではありません。
学歴でもありません。
会話が盛り上がったからでもない。
自分らしく呼吸ができた。
それが、彼女の決め手でした。
彼女が見つけたのは、条件に合う相手ではなく、安心できる相手だったのです。
それまでのお見合いは、無駄ではありませんでした
この話をすると、こう言われることがあります。
では、それまでの数え切れないお見合いは何だったのか、と。
私は、無駄ではなかったと思っています。
自分の本当の感覚に気づくために、必要な時間だったのだと思うのです。
比べる相手がいなければ、「この人といると呼吸ができる」とは気づけません。
彼女がしたことは、たったひとつでした。
確認するものを、チェックリストから自分の気持ちに変えた。
それだけです。
新しい能力を身につけたわけでも、性格を変えたわけでもありません。
リストを閉じたとき、初めて、自分の心が何を感じているのかが見えた。
私はそう思っています。
もしいま、婚活が作業になっていると感じているなら。
あなたのリストは、誰が作ったものでしょうか。
その問いだけ、持ち帰っていただければと思います。
彼女の話は、本の第4章に詳しく書きました。
『正解の結婚より、納得できる人生』

